先日「ツミでミック」で直木賞を受賞した一穂ミチの「スモールワールズ」を読んだ。
夫婦、親子、姉弟、先輩と後輩、知り合うはずのなかった他人ーー書下ろし掌編を加えた、七つの「小さな世界」。生きてゆくなかで抱える小さな喜び、もどかしさ、苛立ち、諦めや希望を丹念に掬い集めて紡がれた物語が、読む者の心の揺らぎにも静かに寄り添ってゆく。吉川英治文学新人賞受賞、珠玉の短編集。
ままならない、けれど愛おしい
「小さな世界」たち。
ままならない、という形容が一番当てはまる。切ないだけではない中編の連作。
すべての物語が最後の少しだけ重なっている。
水槽の中のネオンテトラを観るように姪っ子とその彼氏の様子を眺める彼女。
うーん、怖い!欲しい物を手に入れたモデルの彼女は幸せになったのでしょう。
魔王の帰還
ネオンテトラとは打って変わって、とても楽しいストーリー。
二人のクラスで浮いてしまった高校生の青春もキラッキラしているし、男の子の姉の魔王(謎でしょ?)も素敵。
『最後には負けが決まっているシナリオでも、立ちはだかるから魔王なんだろ。』
今度は離さないって帰っていく後ろ姿が良いよね。
魔王は、お姉さんの名前「まお」から来たあだ名。
ピクニック
これは怪談かもしれない。という怪談ですね。 育児のノイローゼの辛さはちょっとわかる。振り返ればほんの半年程度なのに、(自分でも笑い飛ばせるのに)その最中にいると永遠の苦しみに見えるんだよね…
今度は私もばあばとして孫育てとかできちゃうかもしれないけど、うっかり手が滑って赤ちゃんを落としたら「虐待」と間違われて捕まっちゃう可能性もあるのか。
警察だって、虐待は許さないと思っているのでたちが悪い。
花歌
犯罪被害者の妹と実際に犯人が手紙のやり取りで始まる物語。 東野圭吾の「手紙」を彷彿とさせるけど、犯人からの手紙は最初は粗雑で幼稚なものから、段々と理知的になってくる。ところが事故により頭を打ったせいで徐々に文字を書くことさえおぼつかなくなってくる。
謝らないで、そんな謝罪がほしいんじゃない!
本当の幸せってなんだろうね、と考えさせられる物語。
愛を適量
ある日部屋の前に立っていた「見知らぬ若い男」は実は「性別を変更した娘」だった高校教師の男。
今度はとても楽しい話。12歳で離婚した妻についていった娘カスミ。 想像通りに育っていたとしても話は弾まなそうだが、タイで手術をしてくるという子供にあたふたする男。
淡々としてておもしろい。一周回ってこんなお父さんいいなぁと思っちゃう。
世間的にはダメな親父なんだろうけど。
縁の薄かった父親の葬式に呼ばれて行く先輩と後輩。
後輩は、ネオンテトラのあの男の子の話。
好かれるって怖いだろ?嫌われるより。嫌われたらそれで終わりだけど好かれたら始まっちゃうだろ?
ねじれっちゃってるなぁ…
幸せになってほしいよ。
次に読みたい本
大好きな遠藤淑子の漫画。魔王つながり。ちなみにこの魔王はイケメンで弱そう(だけど激強)