柞刈湯葉(いすかりゆば)が書いた、第一回カクヨムWEB小説SF部門大賞の「横浜駅SF」を読んだ。
なぜ、「横浜駅」なのか?そして、なぜ自己増殖するのかには全く触れられていない。
人間たちの殆どは脳にsuikaを埋め込んで「エキナカ」で生活している。
エキナカが増殖しすぎて、むしろ普通の土地は「駅ではない場所」として岬の端などにわずかに残っているだけである。
そこにはエキナカに入れない人間たちがコロニーをつくってほそぼそと生活しているのだが、一人の若者がキセル同盟という反組織にもらった18切符を使いエキナカに冒険に行く話。
私達が知っている「自動改札機」もただの動かないゲートではなく、suikaを持たない人間を取り締まるロボットポリスみたいになっているし、とにかく冗談みたいなんだけど、最後までおふざけはなくてかっこよいのだ。
なんでも作者は本業は「生物学者」らしく、日曜作家だったのだが、本作でデビューしたので純粋に休みの日がなくなったとぼやいていた。
そんなあとがきにも、語り口はハードなんだけどなんとも言えないユーモアがある。
「自己増殖する駅」という、なんじゃそれ?となるもにに、(多分いつも改装を繰り返している横浜駅から着想を得たのだろう)生物学やネットワークの知識で、色々上塗りして、エンタメとして私達に提供してくれている。
理系による理系のためのエンタメぽくてすこしだけとっつきにくいかもしれない。
ただ、多くのSFほどではない。私が楽しく読めたので初級編だと思う。
勿論褒め言葉だ。
後半は、駅ナカの秘密に迫る冒険にJR北海道やJR福岡(本州以外は横浜駅に侵略されていないので別の組織だ。ちなみに四国は無法地帯担っている)がからんでくるが、悪者の横浜駅を倒して平和をとりもどしました!みたいなわかりやすいものではない。
そもそも横浜駅が悪者なのかどうかも微妙。横浜駅には意志はなさそうだし・・・
そのまえに横浜駅とはなんぞや?が全然わからないのだ。
一応、横浜駅の増殖は止まるのだが、まだまだ続きは書けそうな感じ
コミカライズもされているので、こっちも気になる。アンドロイドが可愛い。
で、作者の名前ってなんて読むのかなーと検索したら、
どうやら「生物学者」ではなく「分子生物学者」だったし、今は日曜作家ではなく本業でされているとのこと。
ああ、この本もこの人か。気になってたんだわ~
もう、表紙のイラストで絶対面白いやつ感がプンプンする。
他にも漫画原作者とかをされているらしい。