iCHi's diary~本は読みたし、はかどらず~

主に読書録。読み終えた本がこのまま砂のように忘却の彼方に忘れ去られるのが申し訳ないので、書き留める。要は忘れっぽい読者の読書日記。

世之介に出会った人生と出会わなかった人生「横道世之介」

現在、毎日新聞に連載中の小説「続々横道世之介」。

 

もうすぐ40代の中堅カメラマンとして楽しく暮らす世之介がえがかれている。

今は、あけみちゃんという料理上手で芸者の血を引くなかなかチャーミングな女性と同棲中。ただし、全く色っぽくはない。

なぜならあけみちゃんは今時珍しい食事付きアパートの大家さんで、皆家族のように賑やかに暮らしているから。

 

さて、

その第一巻にあたる、世之介が大学生の頃の話「横道世之介」を再読。

 

とりたててなんにもないけれど、なんだかいろいろあったような気がしている「ザ・大学生」。
どこにでもいそうで、でもサンバを踊るからなかなかいないかもしれない。なんだか、いい奴。

――世之介が呼び覚ます、愛しい日々の、記憶のかけら。
名手・吉田修一が放つ、究極の青春小説!

 

なんかほんとにすごいな吉田修一!と改めて思った。

お気楽な80年代後半の大学生「世之介」の話と、大人になった「彼の友達」の回想シーンが交互に綴られているのだが、

物語の中盤で、読者は世之介が地下鉄で線路に落ちた女性を助けるため電車にはねられ亡くなってしまうことを知ってしまう。

 

知ってしまっても、次の大学生パートの世之介は本当にノンキで、飾らなくて、どうにも人たらしなのだ。

 

例えば、クーラー目当てにほぼ寄生スルように入り浸る友達が同性愛者であることを告白しても「あ、お前ってそうなんだ~」ですます。

勇気をだして言った本人が「…それだけ?」となる。

挙げ句は、ハッテン場と呼ばれるところまで何故かスイカを食べながらついてきて「じゃあ俺ここで待ってるから」という始末。

なかなかできることではないと思うよ。

私なら、傷つけないように、特別視しないように、差別しないように、色々考えて、固まって、結局傷つけてしまいそう。

 

世之介はその人がどうであれ揺るがない。それをきちんと表現できるわかりやすさがよい。

 

大人になり、自由になった彼らはとっくに世之介との縁も切れているんだけど、ふとしたきっかけで「世之介に出会った人生と、出会わなかった人生」をくらべて出会えてよかったと思うのだ。

 

読者は、世之介が若くして亡くなることを知ってしまっているので、切なさに拍車がかかる。

 

極め付きは些細な事が原因で分かれてしまった元カノが、死後、彼の母親と再開するシーン。母親の「あの子の親で本当に良かった」で涙が止まらなくなってしまった。

 

実は、今の新聞連載はまさに世之介が亡くなるとされている年齢の直前の話だ。

まだまだ、世之介たちに不幸の陰は差し込んではいない。

 

もはや私は横道世之介を読んでいない新聞読者の事が心配でしょうがない。

だって、多分みんな世之介が好きになってしまっているから。

この連載がどんなふうに着地するのか。

 

多分手練の吉田修一はやってくれるんだと思う。

私達のハートをゆすぶって、ギュッとつかんでくれるに違いない。

楽しみにしているおじいちゃんおばあちゃん(多分)が切な死にしないか心配。

 

新聞の連載なので、一気読み必至なのにできないのは辛いところだけど毎日ちょっとだけ世之介に触れるのもまたいいかもしれない。

 

映画化もされているし、実は「続横道世之介」も出ている。(こちらも読まねばね)

 

うわーこの感じ、世之介のイメージとぴったりだわ~

 

 

読まねば。

 

 

 

あ、ちなみにこの珍しい名前「世之介」は井原西鶴の「好色一代男」主人公の名前とのこと。

 

 

ご両親、思い切ったわね~